はじめに

パブリックアート(public art)とは、その都市や場所に歴史や思いなどの文化的な価値を付与し、美術作品を身近なものとする目的として、公共の空間に設置された美術作品です。街中や公園にある記念碑や銅像などは最も良く知られたパブリックアートですね。

良いパブリックアートの前を通ると、なんとなく幸せな得した気分になります。しかもいつも通る道だったりすると、頭が覚えていて安心感を与えてくれたりします。ハチ公前が待ち合わせ場所になったりするのも、そこが広場だからだということもありますが、町のシンボルになるというか、共通の認識の安心感というか、その町にいる人たちをつなぐ象徴になるのだなと感じます。

東京メトロ副都心線に設置されたパブリックアートを実際に見に行った体験を紹介しています。少しでも興味をもっていただけたらうれしいです。

【渋谷駅】海からのかおり/大津英敏

【渋谷駅 B2F 半蔵門線方改札外通路】
海からのかおり/大津英敏(おおつえいびん)
素材:ステンドグラス
寸法:W9.0 H2.4 (m)
協賛:株式会社伊藤園

大津 英敏は日本の洋画家、多摩美術大学教授。
娘さんを題材にした作品を多く制作しています。

この絵は、遠く富士山が見える七里ヶ浜に立つ娘の「香織」さんの姿をあらわしています。

元の原画は油絵。ステンドグラスの製作は職人が行いましたが、顔の部分は大津氏が直接描いたそうです。

海からのかおり Umi karano kaori
大津英敏 Eibin Ohtsu

ひしめく人と、高層建築で溢れる大都会東京。
その街を縦横に走る地下鉄道と雑踏で賑わうメトロの新駅。
そのような場所でこそ、
豊かな海や山の見える大自然の風景が、
心に潤いを与えるのではないだろうか。

作品制作過程(制作会社クレアーレ)

【渋谷駅】きらきら渋谷/絹谷幸二


【渋谷駅 B3F 池袋方改札外通路】
きらきら渋谷/絹谷幸二(きぬたにこうじ)
素材:陶板
寸法:W10.0 H3.9 (m)
協賛:東急グループ

絹谷 幸二は、現代日本を代表する洋画家の一人で、東京芸術大学美術学部教授。

渋谷駅とその周辺を描いています。若者の町、生まれで出た喜びを表現しているそうです。

「わん」と吠えているハチ公や、東急デパート、109のビルがあります。
大きな作品で前の通路も広いので、後ろに下がって眺めて写真をとっていると、影響されたのか通りすがりの人も写真を撮っていきました。

670ピースの信楽焼きで出来ています。陶板は釉薬によって色が変化するので、焼いてみないと分からないところもあり、思った色を出すのはなかなか難しい作業のようです。

絹谷さんはパブリックアートについて、植物みたいなものと語っています。そこを通る人すべての目に触れるものとして、気持ちを共鳴したい。ということです。

きらきら渋谷 kira-kira Shibuya
絹谷幸二 koji kinutani

文部省唱歌「春の小川」は
その昔、里山で生まれたが、
現代の「春の小川」は渋谷の街だ。
新しいエネルギーと文化の香りがいつも漂って
この楽園に人々は集まり
より美しく、より楽しく、時を謳歌する。
街全体が咲けよ、咲けよと
遊べ、遊べと、歌え、歌えよと招いているようだ。

作品制作過程(制作会社クレアーレ)

【渋谷駅】安藤忠雄


渋谷駅のホームは明治通りの真下、田園都市線、半蔵門線のホームよりも深い地下5階にあります。地下2階から地下5階までの約20メートルの巨大な吹き抜けになっています。

この吹き抜けは「天然ダクト」として自然換気システムにもなっており、環境負荷を大幅に軽減しています。

建築家、安藤忠雄が「地宙船」という構想のもとに設計しました。これは「地中の宇宙船」という意味です。「地宙船」という名称からは宙に浮かぶ空間のような印象を受けますが、ホームとコンコースの一部を縦に抜く吹き抜け構造と、駅の随所に見られる船の底や側面を思わせる丸みを帯びた近未来的なモチーフの集合から成る「架空」の船です。

「駅は街の顔。文化を創造する街、渋谷にふさわしく訪れた人々の心に残る駅を目指した」と安藤さんは語っています。


模型と写真がありましたが、実際に地下空間にどのように埋まっているか意識しづらいです。

他の地下鉄の駅では、熱がこもっていて空気が悪いように感じますが、この駅は空気がきれいに感じます。構内では微風を感じるので確かに空気の流れがあるようです。でも冬は寒いです。

【明治神宮前駅】いつかは会える/野見山暁治


【明治神宮前駅 B1F 神宮前交差点方面改札】
いつかは会える/野見山暁治(のみやまぎょうじ)
素材:ステンドグラス
寸法:W10.0 H2.6 (m)
協賛:第一生命保険相互会社

野見山 暁治は、洋画家。東京藝術大学名誉教授。文化功労者。
制作当時、87歳だったそうです(驚)。
ステンドグラスを作るのは、野見山さんにとって初めての体験で、油絵の原画に始まり、ガラスに直接自ら絵付けをするまで、1年半にわたって制作されました。

10メートルは長いので、全体を見るというよりは、前を通り過ぎる人に瞬時に訴える感覚がいいと思ったそうです。抽象的な絵柄ですね。

油絵独自の繊細な表現を表すべく、グリザイユやガラスに砂を吹き付けて削るサンドブラストという手法が用いられています。グリザイユは中世のステンドグラスなどで使われている手法です。

ステンドグラスの上に描かれた、荒いタッチの部分が野見山さん自身の筆によるものです。

原画の油絵とは全然色合いが違うように思います・・・。油絵とステンドグラスはそもそも素材や表現方法が違いますから、当然といえば当然なのでしょうか。


作品制作過程(制作会社クレアーレ)

【明治神宮前駅】希望/武田双雲


【明治神宮前駅 B1F 千代田線連絡通路】
希望/武田双雲(たけだそううん)
素材:陶板
協賛:東京電力株式会社

武田 双雲は熊本県出身の書道家。TV等でパフォーマンス書道を行っていることでも知られています。母・武田双葉に師事をうけました。実は左利きだそうです。

伝統的な書道家からはロゴ作家やパフォーマーと認知されており「書家」と認められてないという話もあります。

NHK大河ドラマ「天地人」のタイトルの題字を担当しました。

希望 Hope
武田双雲 Souun Takeda

人は弱い
弱さがあるから 知るから 認めるから
前に進める 思いやりを持つことができる

人は、希望を抱き続けることで
それぞれの希望が繋がっていくことで
弱さを強さに変換することができる

希望が希望を生み
人を強くしてゆく

【北参道駅】晴のち雨のち晴/吉武研司


【北参道駅 B1F 改札】
晴のち雨のち晴/吉武研司(よしたけけんじ)
素材:陶板タイル
寸法:2.8×10m
協賛:財団法人メトロ文化財団

吉武研司は油絵画家、女子美術大学教授。

順天堂大学附属病院の壁画や、成田スカイアクセス・空港第2ビル駅の壁画も制作しています。どちらも陶板壁画です。

くぼんだ池に魚がいたり、「ヤア」などところどころに文字が描いてあり、楽しめます。タイルをつかんだり、指を入れたりしてみたくなりますね。

原始時代に思いをはせて、太陽の輝きや原色の溢れた世界、植物や動物が人間と共に共存していた世界を表現している。今は便利さのために自然を犠牲にしているが、鮮やかな色彩に祈りを込めて少しでも心の豊かさを取り戻したい。日常生活のなかでふっと立ち戻るきっかけになれば、との意味が込められているそうです。

晴のち雨のち晴 Hare nochi Ame nochi Hare
吉武研司 kenji Yoshitake

想像してごらん
地球と生きものたちのこと
共につながり
共に生き
循環していることを
2008